2020年5月14日木曜日

どうせばればれなんですから

♪会えない時間が 愛育てるのさ。目をつぶればきみがいる~♪

「自宅待機」を強いられている友人たちに、
励ましの想いでこの歌を届けたりしているのだけれど、
ほんとはね、私にとっては切ない歌なんだ。

息子が小さかったころ、よくこの歌を歌っていた。
いま口ずさんでも、懐かしいだけではくくれない、切ない記憶がよみがえる。

24歳。初めての子どもが生まれ、100日目から仕事に出た私。
仕事にお手本はなく、何もかにも手探り。
一生懸命。無我夢中。
子育てももちろん初めてのこと。
教育学専攻なのに何もわかっちゃいない。

息子が泣くとおたおたし「泣かないで、あなたが泣くと母も哀しい」と、
ひたすら「言葉」で訴える「母」でしたね。
抱っこすればいいと分かったのは数か月たったころからだったかも。
「子どもが子どもを育てている」と私の身内からはよく言われたよ。
誰が見ても危なっかしい暮らしぶりだったんでしょうね。

そして、なのに、かな、だから、かな、
「仕事一番。2番自分。3番夫。4番息子」
と公言してたんだよね。
「だって息子は私の人生では、あと入りなんですもの」とも。
ああああ、できることならこの言葉、全部拾い集めて自分の口に、腹に押し戻したい!
息子にはどんな風に届いていたんだろう、この言葉。

そう言いながら、でも私は息子が大好きでした。
観ていると興味深くて、へええと感心したり感動したり。
何よりも、ただ生んだだけの私を、疑うことなくまっすぐな目で見つめてくれる息子!
あああ、こんな風に何も問わず、疑わず、認め、必要としてくれる人に これまで出逢ったことがあるだろうか。
唯一無二の愛、滅私の愛。
息子の視線は、ときに痛く切なく、自分のふがいなさに刺さった。
「そんなに信じないで私を」と言い、夫にたしなめられたりもした。
それでも「子ども一番」とは言えない私。

ひたすら時間が足りない。余裕がなかった。
だから私一人で息子は育てられない。 息子の育ちに必要なもの、無いもの、足りないものは借りよう、助けてもらおうと決めた。
小さな息子には相談なしでね。
「舐めるように可愛いがる」は姑に、 「世話焼きの優しいお母さん」は私の姉にお任せした。
仕事先の仲間や若いスタッフ、ご近所さん等々、 沢山のおとなたちに、沢山かわいがってもらい、育ててもらった。
息子も、そして私も。
沢山のおとなとの出会いは、いずれ息子が思春期を迎え、親に絶望する日が来ても、
おとな全体には絶望しないだろうという期待も母にはあったんだよね。

そして歌った。
♪会えない時間が 愛育てるのさ、目をつぶれば君がいる~♪

気が付くと年長さんになる頃には、少しくらいの熱があっても、
「一人で大丈夫。お母さんは仕事に行って」と言う人になっていた。
私の仕事を良く知っていたからね。
仕事優先の私を支えてくれた。
時間に追われるおとなの暮らしぶりに必死でついてきてくれた。
我が子と言うより我が仲間。
まるで「小さなおとな」。
ごめんな。 子どもは親を選べないんだよねえ。

6年遅れで次の息子を授かりましたが、自分で言うのもなんだけど、 ずっとましなお母さんになってたと思うの。
それは「小さな仲間」との6年間の暮らしのおかげなんだと思うの。

その後もずっと、初めの息子の「初めて」は親の私の「初めて」。
息子が私に親としてするべきこと、してはいけないことを身をもって教えてくれた。
私を「おかあさん」にしてくれた。

一緒に育つ私はとても幸せだったけれど息子はどうだったのだろう。
親の都合で振りまわしてしまったという思いがずっとあって、
彼が一人暮らしを始めたころにかな、どうしても謝りたくて謝ったんだ。
これも親の身勝手なふるまいだけれどね。
「大好きだったけれど、愛し方が間違ってたかもしれない」と。

そうしたら息子がいったんだ。
「ぼく知ってたよ。
だって、ぼくがテーブルの上に置いておいた草を、
お母さん、コップに水はって挿しててくれたでしょ。
だから、
ぼく、独りぼっちじゃないって知ってたよ。」

涙が出た。
ふたりで越えた大事件や出来事は山のようにあったのに、
息子が私の愛を信じてくれたのはこんなささやかな出来事からなんだ。

そうなんだ。
小さな人たちは私たちが思っているよりずっと賢い。
幸せになる力をすでに持っている。

子どもは親を選べないけれど、自分で育つ力を持っている。
一緒に暮らし、私たちを観て感じて必要なものを自分でつかむ力を持っている。
暮らしはそういう力を持っている。

だから私たちはそのことを信じて今を、のびやかに正直に生きればいい。
まずは一人の人間として。
どうせ、ばればれなんだから。


まっすぐ立つシロツメクサ。
西新宿の花伝舎にて。



命がけで働く医療従事者の皆さま
休みたくても休めない職種の皆さま。
ありがとう。おかげさまです。