2019年11月24日日曜日

「受けとめる力を信じて」 ――人形劇を観る前に

上演へのご依頼をいただいたとき、大人と一緒にご覧になるという場合には、
私のほうから「聴いて欲しいお話があります」と大人向けの事前講演会をお願いをすることが多いかな。
とりわけ人形劇『かえるくん・かえるくん』は、
人形劇との初めての出逢い=アートス タートとしてお取り上げいただくことの多い作品。
近頃は、小さな人はもちろん、大人の皆さんにとっても「初めての人形劇」とい うことも増えていますから。

「どうして?」 「観る前にお話を聞いちゃったらたら愉しみがなくなっちゃうんじゃないの?」
大丈夫です。
人形劇への期待が膨らむのと同時に、一緒に観る小さい人たちの様子を愉しむと いう、もう一つの素晴らしい体験の入り口が開かれること請け負います。
「我が子再発見!」
小さな人たちの受け止める力、すでに持っている力の確かさに心動かされること でしょう。

けれど、大人の観客のすべての皆さんに事前にお話を聞いていただくのはなかな か難しい。
そこで、小さなエッセーを、会場入り口に立て掛けておいたり、配布したりしています。
ここに載せさせていただきますね。
随分前に書いたものですけれど、ぜひお目通しくださいませ。



「受けとめる力を信じて」

客席が急にざわつくときがあります。
『かえるくん・かえるくん』の友だちとの別れのシーンです。

ドラマとは関係のない話をしだす子どもや、
さっきまで子ども席に一人で座っていたのに、おかあさんのところにつーっと寄って行く子ども。
お母さんの胸やひざに顔をうずめてしまう子どもも。

「一番いいところなのに」
「さっきまであんなに集中して観ていたのに」
「あれ、飽きちゃったのかな」
大人は不安になったり心配したり。

でも大丈夫。
たぶんドラマに飽きたのではなく、むしろ心いっぱいかえるくんのことを心配してくれているのでしょう。

小さな人たちは、
<居ても立ってもいられない>ときは<居ても立ってもいられない>と
からだで表現するようです。

そんなときはただ抱きとめてください。
どうぞ言葉で慰めないでください。

そして彼らが、
自分の意志で、舞台のほうへからだを向けなおすのを待ってあげてください。

芝居は、年齢を問わず、観客一人一人に等しくメッセージを届けるものなのです。

ときに大人の助けも得ながら、
劇場空間を自分の意志で生きること、
二つの目、一人の人格、新しい市民として生きていることを
見守ってほしいと思います。

小さな人たちにとって一番最初に接する文化は、
お母さんであり家族なのだということの意味を近ごろとみに感じています。

子育ての術が何か他にあるように思われがちなのですが、
子育てでまず問われるのは、大人がどんな文化のなかに身を置くかということではないのでしょうか。



『かえるくん・かえるくん』
かえるくんは、森の中でお友だちに出会いますが……。
 

2019年11月7日木曜日

一人百色

島根県の幼稚園での観劇会でのことです。

三歳児から五歳児まで50人くらいかな。
作品は「ふたりのお話」。

いつものように五歳児さんが一番前に。そして、四歳児さん、三歳児さん。
いつもと違うのは、客席を縦に二つに分けたこと。
半分が園児席。残りの半分が大人席。
そう、
五歳児さんのかたまりと、その親御さんのかたまりが、並んで座ったわけです。

そうしたらね……、
素敵なことが起こったの!

観劇後のお父さんお母さんとの交流会で、
どの親御さんも
「我が子がこんなに笑う子だったとは知らなかった」
と口々に。

いいでしょ❤

「初めて人形劇を観ました」という方がほとんどでしたが、
親御さんは舞台も楽しんでくださりながら、
時々身を乗り出したり、背を伸ばしたりして、我が子の姿を観ていたのね。

「ふたりのお話」は、
進行係のおばあさんが客席に向かって話しかける、私の劇団ひぽぽたあむでは珍しい作品。

「人形劇は好きですか?」とか
「皆さんが一番好きな季節はいつですか?」 とか客席に聴く。
客席からの応えも洒落ていて、
そのやり取りでまた笑っちゃう。

五歳児も三歳児も大人も、
笑う笑う。喋る喋る。

私は思いました。
親御さんの席を、小さな人たちの隣にしてよかったな。
親御さんはやっぱりわが子の様子も観たいんだな、
とね。

かたまりの中のわが子を、ね。

そして言いました。
「親御さんといるときの顔は、親御さんといるときの顔で、全部じゃないんだね。
よそでは違う顔ももってる。
おとなの皆さんもそうでしょ」

そして
「わが子のことは私が一番知ってる、と思わない方がいいんじゃないかしら。どんなに仲良しでも」 とも。

わが子の豊かな顔は、豊かな出逢いで生まれ育つんじゃないかなと。

いろんな人との交わりのなかで、
本人も気がつかないうちに、自分の中の何がが引き出される。

わが子の中に、まだまだ出逢っていないわが子がいる……!?

なんか愉快。


「皆さんが持ち寄ってくださった布で作りました」
チェリヴァ公演 UNNANアートスタート実行委員会 石田敬子作