2017年10月31日火曜日

言葉探しの旅に出ませんか

「一生もんの人形をつくろう」ワークを我が家でやっています。
朝の9時から夜の9時までひたすら手縫いします。これがなかなか愉快です。

頭(かしら)の部分から縫い始めますが、当然、仕事の早い人とゆっくりな人がいます。
仕事の早い人に合わせて、
「さあ、次の仕事=ボディの縫い方を説明します」
と私。
まだ頭が終わっていない人は「えっ、もう?」という顔をしますが、
気づかない振りをして、「さあ、一旦手を止めてご覧になって」と。

「へえ」とか、「そうなんだあ」とか、相づちをうちながら皆さん真顔。
真剣に聴いてくださる。
 全員注視の中、ひと通り説明。
終わると皆さん再びそれぞれの仕事に戻ります。

しばらくすると、やっと頭が縫い終わった人が突然こう言います。
「ボディはどう縫うんですか?」あるいは「次はどこを縫うんですかあ?」

「ひえっ。先ほど説明しましたよね」の言葉を飲み込んで、
「ボディですよ」
と私。
「へええ」「そうなんだあ」
まるで初めて聴くようなそぶり。のどか。屈託がない。

そうなんです。
自分が直面しない限り、あらかじめの説明なんぞ、見てるようで見てない、聴いているようで聴いていない。筒抜け状態。
もちろん悪意なんぞはない。
結果として、三人参加者がいれば三回。十人いれば十回説明をすることになる。
丁寧に、初めて語るように語る。それが仕事だからね。

どうやら人は、その場その時にならないと、見ても聴いても、頭に残らないことが多いらしい。
ひとつ終わって、さあ次っ、と思った時に、あれ、これなに? と。
やっと「わがこと」になる。
直面したときに初めて目が開き耳が通る。

小さい人たちも同じではないのかしら。

「さっき言ったでしょ!」
「何度言ったらわかるの!」
昔からしつけは、し続けること、とよく言われますが、回数ではなくて、どうも、言うタイミングがありそうです。
関心がそこにないときは、無駄とは言わないまでも、届いていないことが多いのでは?

歩き出したとたんの「転ぶよ」(まだ転んでないでしょ)
スプーンを持ったとたんの「こぼさないでね」(まだ食べてもいないってば)等など。
むしろ、よかれと思っての、前もっての忠告は、
小さいひとのためと言うより、大人の独りよがり?! というか、精神安定剤?

――なにか言いたい。
――だったら、忠告じゃなくてもいいよね。
「気持ちいいね」とか
「おいしいかな」とか。

指図、命令、忠告じゃない言葉。 探してみませんか。
指図、命令、忠告は「ここだっ」ってときにとっておいて。
小さな人たちはもちろん、大人たちも楽しい気分になるんじゃないかな。

どうかしら。

ちなみに 「一生もんの人形をつくろう」ワークは、
途中で私の作った粗末な昼食をとり、出来上がったらお誕生会をします。
もちろんその日生まれ出た人形たちのね。

なぜか、人形を作っていたのに長い旅に出掛けていたような気分になるから不思議。



「一生もんの人形をつくろう」ワークショップの締めくくりは
人形のお誕生会
〈ケーキは井澤智子さん・伊東しのぶさん作〉

2017年10月15日日曜日

おしゃべりな背中

 
「ひぽぽたあむの人形劇は、台詞なしのシーンから始まることが多いですね」
のご指摘を受けて、
あらほんとだ、と気がつきました。

『ハリネズミと雪の花』
は、始まったとたんに、ハリネズミではなく、くまくんが、舞台を行ったり来たり。
しばらくして
「あ、木(薪)運んでるんだ」
と誰かがつぶやく。

『かえるくん・かえるくん』
ではベッドから降りて支度して、うがいして、顔を洗って、ご飯食べて、
やっと
「昨日野うさぎくんがね」
と話し出す。

『スキレルとヘアとグレイ・ラビット』
にいたっては、
ご覧くださった小さな観客に
「今日の人形劇は、なかなか始まらなかったねえ」
と言われる始末。

弦楽器四本の美しい音楽で幕が開くと、朝。
目覚めた灰色ウサギが登場するも、水を汲んだり沸かしたり、掃除したり。
クロスを広げ、皿を並べ、テーブルセッティングを終えてからやっと、
一緒に住んでる大ウサギとリスに
「ご飯だよ」
と声をかける。

でも、私はこの台詞のないシーンが大好きで、大事だと思っています。

小さな人たちは無言の、説明なしの、観ていないとわからない
「ただ観るしかないシーン」から、
これから始まるお芝居の特徴や、創り手の伝えたいことの根っこを掴んでしまうようです。

そう言えば
大正生まれの私の親たちは、 黙って良く働いて、
口から出る言葉ではない、体や行いでいろんなことを語っていたなあ。
子どもながらにも、小さな私はそれを感じてた。
もしかすると、
それと似ているのかもしれないな。

小さな人たちは実に良く観ています。
観て、分かってもいるようです。

ちなみに私は
「今日の人形劇はなかなか始まらなかったね」と言った少年には
「あなたのお母さんも、あなたが起きる前にあんなことしてるんじゃないのかしら」
と言いました。 すると
「あっ、そうか」
と。

小さな人たちは、言葉より語るものを受けとめる力にたけた人たちのようです。
ですから、
私たち大人の、弱さも醜さもふくめてもうバレバレ。
それでもお母さん!と愛してくれる!
もはや、伸びやかに精一杯誠実に生きるしかありません❤

まずは
主権在民の証としての選挙に参りましょう。
これも未来を決める大人としての大事な行いですもの。



『ハリネズミと雪の花』のくまくんとハリネズミくん


★厚生省中央児童福祉審議会推薦'91
明日は新年の前のお祝いの日。 くまくんは高熱を出してしまいます。
病気を治すことができるのは「たのし草の花」だけと聞き
親友のハリネズミは雪の森へ飛び出しますが…。
『ハリネズミと雪の花』
 
1年1組パペットシアター(西新宿芸能花伝舎