私のほうから「聴いて欲しいお話があります」と大人向けの事前講演会をお願いをすることが多いかな。
とりわけ人形劇『かえるくん・かえるくん』は、
人形劇との初めての出逢い=アートス タートとしてお取り上げいただくことの多い作品。
近頃は、小さな人はもちろん、大人の皆さんにとっても「初めての人形劇」とい うことも増えていますから。
「どうして?」 「観る前にお話を聞いちゃったらたら愉しみがなくなっちゃうんじゃないの?」
大丈夫です。
人形劇への期待が膨らむのと同時に、一緒に観る小さい人たちの様子を愉しむと いう、もう一つの素晴らしい体験の入り口が開かれること請け負います。
「我が子再発見!」
小さな人たちの受け止める力、すでに持っている力の確かさに心動かされること でしょう。
けれど、大人の観客のすべての皆さんに事前にお話を聞いていただくのはなかな か難しい。
そこで、小さなエッセーを、会場入り口に立て掛けておいたり、配布したりしています。
ここに載せさせていただきますね。
随分前に書いたものですけれど、ぜひお目通しくださいませ。
「受けとめる力を信じて」
客席が急にざわつくときがあります。
『かえるくん・かえるくん』の友だちとの別れのシーンです。
ドラマとは関係のない話をしだす子どもや、
さっきまで子ども席に一人で座っていたのに、おかあさんのところにつーっと寄って行く子ども。
お母さんの胸やひざに顔をうずめてしまう子どもも。
「一番いいところなのに」
「さっきまであんなに集中して観ていたのに」
「あれ、飽きちゃったのかな」
大人は不安になったり心配したり。
でも大丈夫。
たぶんドラマに飽きたのではなく、むしろ心いっぱいかえるくんのことを心配してくれているのでしょう。
小さな人たちは、
<居ても立ってもいられない>ときは<居ても立ってもいられない>と
からだで表現するようです。
そんなときはただ抱きとめてください。
どうぞ言葉で慰めないでください。
そして彼らが、
自分の意志で、舞台のほうへからだを向けなおすのを待ってあげてください。
芝居は、年齢を問わず、観客一人一人に等しくメッセージを届けるものなのです。
ときに大人の助けも得ながら、
劇場空間を自分の意志で生きること、
二つの目、一人の人格、新しい市民として生きていることを
見守ってほしいと思います。
小さな人たちにとって一番最初に接する文化は、
お母さんであり家族なのだということの意味を近ごろとみに感じています。
子育ての術が何か他にあるように思われがちなのですが、
子育てでまず問われるのは、大人がどんな文化のなかに身を置くかということではないのでしょうか。
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『かえるくん・かえるくん』 かえるくんは、森の中でお友だちに出会いますが……。 |