2017年1月24日火曜日

やさしい無関心


ドイツにいったときのことです。

広大な野外の、蚤の市(?)でビールを頼んだのです。
通貨に慣れてない私は、何と何を組み合わせ払えばいいのかわからす、こっちのポケットあっちのポケットをまさぐり、そう、モタモタ三昧。
しまいには手のひらにそれらを全部のせて、「ここからとって」とおじさんにつき出しました。
おじさんは笑いながら幾つかつまみとってくれ、ビールを手渡してくれました。
うまそー。すぐに一口。
すると、「ヒューヒュー」拍手や口笛。
振り向くと私の後ろには行列ができていました!

モタモタしているときは騒がず、見ない振りをしていてくれてたんだ。
嬉しいねえ。
私が幸せを手にいれたとたんに拍手。
我がことのように喜んでくれた。
この距離感。
私は好きです。

助けて、といわれるまで口を出さない。
もちろん命に関わらないことなら、という前提つきですが。
自分の力で、自分のやり方で、越えられるものは越えていく。
周りは、見るでもない、見ないでもない。
求められるまで口だし、手だししない。
そして、乗り越えられたら、周りも一緒に喜ぶ❤
素敵。

ちなみに目が不自由なかたをお連れするときに、手はとらない。
連行じゃないのだから。
こちらの肩に軽く手をのせていただき、半歩前を歩く。
なぜか。
ご自分が歩きたくなくなったら手をはずせる、自分の意思で留まることができる、ということ。
連れていかれる、のではなく自分で歩く。
進むも留まるも決めるのはご本人、援助者じゃないということ。

ね、ちょっといいでしょう。
小さな人たちとの距離の取り方と似てるような気がしますが、いかがですか?


ベルリンを歩く。



人形劇団ひぽぽたあむの新作『ねずみ女房』
2月5日(日)開演15:00
市川市文化会館
2月11日(土・祝)開演11:00/15:00
くにたち市民芸術小ホール
前売り2000円(当日2500円)
お申込み・お問い合わせ http://hipopotaamu.com

2017年1月5日木曜日

「見守る」を「観守る」に。

「明けましておめでとうございます」
そう言い交わす正月がわたしは好きです。
前の年どんなことがあろうとも、新しく朝を迎え、新たな気持ちでことを始める。
リセット!
もちろん、忘れてはいけないことは沢山あるけれど、その事にさえ新たな気持ちで向き合おう、という精神。
そのポジティブさは、先人の知恵として、身に付けたいな、と思うのです。
さて、今年はじめての呟きです。

トイレを出るとき、ペーパーを三角に折りますか?

講演会のしょっぱなに、そう問いかけてから始めることがあります。
子育てについての講演会の時です。
「折るかた」
「折らないかた」
と、手を挙げてもらいます。
そして
「それは何故ですか?」
と再度訊きます。

折るかたは、「次の人が使いやすいように」とか「自分が入った時に折ってあったから」の答えが多い。
次の人のために、ということですね。
同じ質問への、折らないかたの答えが面白い。
「次の人のことなんか考えたことがない」
というかたもいますが、
「いえいえ次の人のことを考えるから折りません」
と。
実は私もこちら派なんですが。
「だって、自分の用を足した直後の手ですよ」
「次の人のことを考えるから、折りません」
「だって失礼でしょ」
と。

そうなんです。
次の人のことを考えて、というところまでは一緒だけれど、
その思いを形にしたときに真反対の行動もありうるということ。

「こんなふうに、本日のお話は、山の頂上はひとつでも、登り口は、登り方は色々あるというお話です」 という前置きをしてから、
「人はそれぞれなのだ」
ということや、
「わが子でさえ、ママと一緒とは限らない」
ということをお話しすると、 ストンとわかってくださるかたが多いようです。
「○○だったら○○するはずだ」という見方は生きづらさを生みやすいよう。
我が子の子育てしかり。

「はて、何をしようとしてるのかな」
「何故こんなことをするのかな」
と、もう一回平たい気持ちで「しかと」観るのはどうでしょう。
ママとは違う考えで、違うやり方で何かをやろうとしているのかもしれません。
みまもりましょうよ。
そのとき、見守るの「見」を観察の観に切り替えてみませんか。
 思いがけない我が子に出逢えるかもしれません。



ワークショップ「誰も見たことのない生き物を作ろう」の風景



【人形劇団ひぽぽたあむ公演のお知らせ】
「ねずみ女房」
あるところに、家族のために毎日毎日食べ物を探して、
掃除して、走り回る小さなめすねずみがいました。
働くことは苦にはなりませんでしたが、「何か足りないもの」があるような気がしていました。
ある日、彼女は鳥かごに入れられたはとと出逢います・・・・・・・

2月5日(日)開演15:00
市川市文化会館
2月11日(土・祝)開演11:00/15:00
くにたち市民芸術小ホール
前売り2000円(当日2500円)
お申込み・お問い合わせ http://hipopotaamu.com

2016年12月23日金曜日

小さい人との会話はあなどれない

「ムツミサン」
「久しぶり、元気?」
「塗り絵を持ってきたの」
「へえ、私にも見せて」
公演の準備がすんで、休んでいると、4才くらいの女の子Aちゃんが近づいてきました。
一月程前に、観劇をうんと楽しむための「事前ワークショップ」とお食事会をしていますから、私たちはすでに、知り合いの仲、な訳です。

彼女は小脇にかかえてきた塗り絵を、私の前に置き一枚一枚めくりながら話してくれます。
ゾウのページでは
「(クレヨンに)銀色がなかったからちゃんとできてないの」
「あらそう、他の色も混ぜたらゾウ色になるかも」
「わたし、そういうことしないの」
とばっさり。
感性は固有のものです。
よそのおばさんはもちろん、親でも踏み込めません。

そこへ少しお姉さんの子がやってきて、
「この子わたしの友だちなの」
と。続けて、
「この子たちは年中さん。でも私は年長さん」
と、少々上から目線の口調で入り込んできました。
へぇぇ、この時代は、一歳でも年上は年上、偉いんだぁ、と感心。

そしてAちゃんがめくる塗り絵は、ミッフィーちゃんの絵のページに。
Aちゃんが
「これ肌色」
と言うやいなや、かの年長さん、
「白だよ!」
Aちゃんがなにか言おうとしても
「白!」
ときっぱり。

そりゃそうかもね、白うさぎのミッフィーだからね。
でもAちゃんが何を言いたがっているのかも知りたい。
もしかして、
今のクレヨンでは「肌色」という言い方はしないのだから、Aちゃんは別のことを言いたいのかな、と私。
つい、
「私、緑の肌色の人知ってる。かえるくん(私の演目の主人公)」
そうしたら少し間があって、
Bちゃんが茶色のクレヨンを手に
「私こういう色の人も知ってる」
と。

「感じる・考える」は、勝ち負けじゃない。
aでもない、bでもない、新たなCを見つけることなんだよねぇ。

小さな人たちとのお話は展開も中身も素朴で、なかなかに深いものでした。


この時期はこれを会場入り口に飾ります。
くまくんとハリネズミくんは、ひぽぽたあむの馴染みの出演者。
公演先の小樽で偶然見つけました。

2016年12月13日火曜日

ママが裁判官にならなくてもいいんじゃないかな

 
 

ワークショップでのことです。
ワークショップでは、参加者全員がそれぞれに、紙封筒に画用紙や紙テープなどを切ったり貼ったりして「誰も見たことのない生き物」を作るのです。
ある日、1年生と4歳の姉妹がお母さんと一緒にやってきました。
会はもう始まっていましたから「さあ、今日一番好きな色を選びましょう」と、39色の封筒が並んでいるテーブルに誘いました。
すると、ちょうど妹ちゃんの目の前に紫色の封筒が!
紫色はいつも大人気で一番早くなくなりますが、1枚だけ運良く(悪く?かな)残っていました。 「わー、きれい」
と妹ちゃんが両手を挙げて喜んだのがもめ事の始まり。
そう、その隙に姉さんがしゅっと妹ちゃんの目の前の封筒を取ってしまったのです。
妹ちゃんは泣き出し「お母さんんんん」とお母さんの洋服を引っ張りながら、姉さんから取り戻してくれと要求します。
お母さんは困った顔をしながら「お姉ちゃん!」と𠮟りますが姉さんは返そうとはしません。
妹ちゃんの声はどんどん大きくなり……。
 
で、ここで私の出番です。
このワークショップは私のしきりですからね。
「今一番大事なこと」は何か、と考え、実行する。
お母さんには
「さっさとあなたの作品をお創りになってね」 と。
妹ちゃんには
「返してと言える?」
と訊ねました。
ところが相変わらず「お母さんんんん」を繰り返す。
姉さんには
「返せる?」
答えはノウ。
(いつも譲っていて今日こそは、と決心してるのかしらと思うほど)
「それじゃあ、それぞれ作り始めましょう」
と何事もなかったように私。
おろおろするお母さんにこっそり一言。
「よーく子どもたちを見て。もう封筒の取り合いじゃないね、『あなた』の取り合いに変わっているよ」 と。
そうなんです。 小さな人たちのもめ事は、初めはモノの取り合いだったりしますが、次第にお母さんはどっちの味方なの? てな具合に、「お母さんの取り合い」に変化してることがままあるのです。
どちらの味方をしてもいいことはありません。
モノの取り合いはモノの取り合いで勝手にやっていただきましょう。
ケガをしないように、
姉さんには「妹ちゃんは母さんの大事な子よ」妹ちゃんには「姉さんは母さんの大事な子よ」と言葉を添えて。
 
結局姉妹はどう折り合いをつけたのかですって?
もちろん三人ともそれぞれ「誰も見たことのない生き物」を作ってお帰りになりましたよ。
妹ちゃんは、ずいぶん長いことぐずぐず言っていましたが、
私が彼女のそばに行き、見せびらかし気味に手動シュレッダーで遊び、「あなたもやりたい?」と訊ねると、目を輝かせ、初めはお母さんにやらせて、その上から自分も手を添えてやっていました。 でも次にはお母さんの手をのけて、一人で夢中になって楽しんでいました。
姉さんとのもめ事はどうでもよくなったみたいで、他の色の封筒で完成させていました。
よかったよかった。


「誰も見たことのない生き物を作ろう」
は紙封筒で思い思いの人形を作って遊ぶ
大人気のワークショップ


ワーク中のむつみさん
会場には色とりどりの素材がいっぱい!
どれも使いやすくセッティングされています


人形劇団ひぽぽたあむによる人形劇『ハリネズミと雪の花』は
心がほっと温かくなる小さな奇跡の物語。
ロシアの森を舞台にした、幻想的で美しい作品です。

お問い合わせ先:横浜人形の家☎045-671-9361
お申込フォームから予約できます。www.doll-museum.jp

2016年11月10日木曜日

とりあえずの「ごめんなさい」って?

こんにちは、永野むつみです。
一年中全国をまわって、人形劇の公演を続けています。

おかげさまで人形劇の公演はいつも親子づれでいっぱいになります。
劇が終わればわたし(というより主役のお人形さんですが)は、小さな人との握手会に大忙し! とても楽しいひとときです。
一方で、最近では若いお母さんたちから子育ての悩みを相談されることが多く、気になっています。
大人たち自身が生きにくい窮屈な世の中で、お母さんたちがおおらかな気持ちで子育てできなくなっているのかもしれないと。
すでに成人した長男が母親のわたしにつけた点は「58点」。
けっこういいじゃない!と思ったら、次男によれば「合格点は60点だよ」ですって。

子育てってほんとうにむずかしい。
どんなにがんばったって、100点ママになんてなれっこないんです。
59点でいいじゃない。
かけがえのない子育ての時間なのです。
もっと楽しんでみませんか。

      *

わたしが小さかったころも子どもどうし、ちょっとしたもめごとはありました。
理由はささいなこと。
わたしが「赤!」と言うのに、友だちが「青!」と言い続ける。
「もう、遊ばない!」
ぷいっと別れる。
1日、2日と、遊びに行かない。
でもそのうち、友だちのことが気になり始める。
だってやっぱりいっしょにいると、楽しいんだもの。
ゆるしてやるか。
そう思い始めたころ、ちょうど同じころ、あの子も、
ゆるしてやるか。
と思ってる(らしい)。
そしてえいっとでかけると、
「やあ」と。
また、ふたりはいっしょに遊び始める。
なにごともなかったかのように。
「ごめんね」という言葉はすでにいらない。

考えがちがうからいっしょにいられないわけじゃない。
一緒に遊びながら、「ほんとは赤なんだけど、青っていう人もいるんだ」と意見の違う人がいることを知る。
受け入れがたいからときどきぶっつかる。
ぶっつかりながらも、一緒に遊ぶことが楽しいから仲直りする。
仲直りには時間がかることもあったわけです。
もちろん、そこに親の介入はいっさいありませんでした。

最近、公園ではこんなシーンをよく見ます。
AくんがBくんにちょっかいを出す。
BくんがAくんをたたいてAくんは泣き出す。
すると、ママどうしでおしゃべりしていたBくんのお母さんが飛んでくる。
「あやまりなさい。たたくのはいけないって言っているでしょう⁉」
Bくんは黙っている。
「ごめんね、って、言いなさい‼」
無理やりBくんの頭をおさえて、とりあえずのごめんねをさせる。

さて。
このとりあえずの「ごめんなさい」は、何を育てるのでしょう。
気持ちが納得していないのに、とりあえずのごめんねを言い合う習慣は、心と言葉をバラバラにするようで心配です。
とりわけ感性が一番育つ子ども時代に。 

わたしが小さかったころは、「子どもはケンカをしながら大きくなるもんだ」というおおらかな大人たちに囲まれていました。
よほどのことがない限り放っておいてくれました。
おかげでケンカをしても、「やっぱりあの子と一緒に遊びたい」、だから「ごめんねしたい」の気持ちが自分の中に育つまでのじっくりした時間がもらえました。
自分の力で落とし前をつけるやり方を、学ぶことができました。
それで、大人になれたのだと思うのです。

小さな人には乱暴な時期もあるということ、今すぐにごめんねを言えない日も、言いたくない事情もあるということ、ぜひご自身の小さい時のことを思い出してみてください。

小さな人たちの心からの「ごめんね」を育てるために、周りの大人たちみんなで、待ちあいませんか。



そのためにも「私の子ども」から「私達の子ども」と言い合える
大人たちの関係が大事なのでしょうね


永野むつみ
山形県生まれ。プーク人形劇アカデミー、町田市障害者青年学級主事、人形劇団カラバスを経て
1988年に片手遣い人形専門劇団・人形劇団ひぽぽたあむを設立。同人形劇俳優・代表。
2012年にはO夫人児童青少年演劇賞受賞。
絵本の会「むつみ塾」主宰。役者、演出、脚本、講演と多岐にわたり活躍中。
http://hipopotaamu.com/